神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)1836号 判決
原告
西山智賀子
被告
藤原辰夫
主文
一 被告は、原告に対し、金一五二万八三九八円及び内金一三八万八三九八円に対する昭和六〇年一一月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の、その四を被告の、各負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
一 当事者双方の求めた裁判
1 原告
(一) 被告は、原告に対し、金一九八万八五九五円及び内金一八三万八五九五円に対する昭和六〇年一一月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は、被告の負担とする。
(三) 右(一)につき仮執行の宣言。
2 被告
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。
二 当事者双方の主張
1 原告の請求原因
(一) 別紙事故目録記載の交通事故(以下本件事故という。)が発生した。
(二) 被告は、本件事故当時、被告車の所有者であつた。
又、被告は、右車輌の運転者として、自車前方及び左右を注視して進行すべき注意義務があつたのにこれを怠り、自車前方及び左右を注視せず自車を進行せしめた過失により本件事故を惹起した。
よつて、被告には、自賠方三条又は民法七〇九条のいずれかにより原告が本件事故により蒙つた損害を賠償する責任がある。
(三) 原告の本件事故による受傷及びその治療経過は、次のとおりである。
(1) 原告の受傷名 顔面裂創、右下腿打撲並びに擦過創。
(2) 治療経過
谷口外科 昭和六〇年一一月六日から同年同月一一日まで通院(実治療日数六日)。
神戸中央市民病院 同年一一月一三日から昭和六一年四月一六日まで通院(実治療日数七日)。
(四) 原告の本件損害は、次のとおりである。
(1) 交通費 金二万〇八五〇円
谷口外科へ通院のためタクシーを利用し、金二万〇八五〇円を要した。
(2) 慰謝料 金二六七万円
(イ) 通院分 金五〇万円
原告の本件受傷治療のための通院期間は前叙のとおりであるところ、右事実に基づけば、同人の本件通院分慰謝料は金五〇万円が相当である。
(ロ) 後遺障害分 金二一七万円
原告の右頬には今なお傷痕が残存しているところ、右後遺障害は、自賠責法施行令二条「後遺障害別等級表一二級一四号」に該当する。
なお、原告は、現在小学校五年に在学中であるが、その顔面に右傷痕が存在するため、同級生から「傷の西山」とか「顔に傷のある女」等とからかわれ、その都度くやしい思いをしている。
右事実に基づけば、原告の本件後遺障害慰謝料は金二一七万円が相当である。
(3) 弁護士費用 金一五万円
(4) 以上、原告の本件損害の合計額は、金二八四万〇八五〇円となる。
(五) 過失相殺
本件事故の発生には原告の過失も寄与しているところ、その過失割合は、全体に対し三〇パーセントが相当である。
そこで、原告の本件損害合計額金二八四万〇八五〇円を右過失割合で過失相殺すると、その後の右損害額は、金一九八万八五九五円となる。
(六) よつて、原告は、本訴により、被告に対し、本件損害金一九八万八五九五円及び弁護士費用金一五万円を除いた内金一八三万八五九五円に対する本件事故日の翌日である昭和六〇年一一月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する被告の答弁及び抗弁
(一) 答弁
請求原因(一)の事実は認める。同(二)中被告が本件事故当時被告車の所有者であつたことは認めるが、同(二)のその余の事実及び主張は争う。同(三)中原告が本件事故により受傷したこと、同人が右治療のため谷口外科に六日間通院したことは認めるが、その余の事実は争う。同(四)(1)中原告が通院のため交通費を要したことは認めるが、その額は争う。同(2)(イ)中原告が谷口外科へ六日間通院したことは認めるが、同(イ)のその余の事実及び主張は争う。同(2)(ロ)中原告の頬に傷痕が存在することは認めるが(ロ)のその余の事実及び主張は争う。同(3)の事実は争う。同(五)の事実は認めるが、その主張は争う。同(六)の主張は争う。
(二) 抗弁
本件事故は、原告が故意に飛び出して来たため発生した。
よつて、原告に右事故発生に対する全面的過失がある。
なお、被告は、原告の谷口外科分治療費金六万三〇〇〇円を支払つた。
3 抗弁に対する原告の答弁
抗弁事実中原告にも本件事故発生に対する過失が存在すること、被告が原告の谷口外科分治療費金六万三〇〇〇円を支払つたことは認めるが、その余の抗弁事実及び主張は全て争う。
三 証拠関係
本件記録中の、書証、証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一1 請求原因(一)の事実、同(二)中被告が本件事故当時被告車の所有者であつたことは、当時者間に争いがない。
2 右当事者間に争いのない事実によれば、被告には、自賠法三条により原告の本件損害を賠償する責任があるというべきである。
なお、原告は、被告の本件事故に対する責任原因として、民法七〇九条に関する事実をも主張するが、同人は、右責任原因として自賠法三条に基づく分と民法七〇九条に基づく分を択一的に主張していると解されるので、右説示のとおり被告の本件責任原因として自賠法三条関係が肯認される以上、右民法七〇九条に関する分は判断の必要を見ない。
3 原告の本件受傷内容及びその治療経過について判断する。
(一) 原告が本件事故により受傷したこと、同人が右受傷治療のため六日間通院したことは、当事者間に争いがない。
(二) 成立に争いのない甲第二、第三号証、原告法定代理人親権者母西山洋子本人尋問の結果(以下単に母西山洋子本人の供述という。)により真正に成立したものと認められる甲第四号証、母西山洋子本人の供述及び弁論の全趣旨を総合すると、原告の本件受傷内容は顔面裂創、右下腿打撲並びに擦過創であつたこと、同人は右受傷治療のため昭和六〇年一一月六日から同月一一日まで(実治療日数六日)谷口外科に、同年一一月一三日から昭和六一年二月一二日まで(実治療日数六日)神戸中央市民病院に、それぞれ通院したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
4 続いて、原告の本件損害について判断する。
(一) 通院交通費 金一万〇四二五円
(1) 原告が通院のため交通費を要したことは、当事者間に争いがない。
(2) 前掲甲第四号証、母西山洋子本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、原告が谷口外科通院のため本訴請求にかかる交通費合計金二万〇八五〇円を要したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(3) しかして、原告の本件受傷の部位内容は前叙認定のとおりであるところ、右認定事実に照らすと、本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下本件損害という。)としての右通院交通費は、金一万〇四二五円と認めるのが相当である。
(二) 慰謝料 金二〇〇万円
(1) 通院分 金一五万円
原告の本件通院期間については前叙認定のとおりである。右認定事実に基づけば、原告の本件通院慰謝料は金一五万円が相当である。
(2) 本件後遺障害分 金一八五万円
(イ) 原告の頬に傷痕が存在することは、当事者間に争いがなく、同人の本件受傷の部位内容は、前叙認定のとおりである。
(ロ) 撮影対象については争いがなく、その余の付陳事実については母西山洋子本人の供述によりこれを認め得る検甲第一号証、母西山洋子本人の供述及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、昭和六一年二月一二日頃、神戸中央市民病院の担当医師から原告の右頬の受傷は治癒したと診断されたこと、原告の右頬にはその際傷痕が残存したこと、原告は、右担当医師から、将来再手術をしない限り右傷痕は存続すると申向けられたこと、原告の右傷痕は現在なお残存し、その形状は長さ約二センチメートル幅一センチメートル足らずで、右頬のほぼ中央部に位置し、その存在は一目瞭然であること、原告は、現在小学校五年に在学中であるが、同級生から「傷の西山」とか「顔に傷のある女」とかからかわれ、その都度心を傷つけられていることが認められ、右認定に反する被告本人尋問の結果は、前掲各証拠と対比してにわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(ハ) 右認定各事実のほか本件訴訟に現われた諸般の事情を総合すると、原告の右傷痕は本件事故の後遺障害と認められるところ、原告の右後遺障害慰謝料は金一八五万円と認めるのが相当である。
(三) 右認定説示から、原告の本件損害の合計額は、金二〇一万〇四二五円となる。
二 被告の抗弁について判断する。
1 原告にも本件事故発生に対する過失が存在することは、原告の自認するところである。
なお、被告は、原告において故意に被告車の直前に飛び出し本件事故が発生した旨主張するが、右主張事実は、これを認めるに足りる証拠がない。
2 母西山洋子本人、被告本人の各供述(ただし、母西山洋子本人の供述中後示信用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は、本件事故直前、被告車を時速約二五キロメートルで西方から東方へ向け運転進行させ、右事故現場付近に至つたこと、被告車の進行した道路は、下り坂道で左方にカーブしており、本件事故は、右カーブを曲つた直後付近で発生したこと、原告も自分の右方(西方向)の安全を確認せず、右道路を徒歩で横断したことが認められ、右認定に反する母西山洋子本人の供述部分は前掲証拠と対比してにわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
3(一) 右認定各事実に基づけば、原告にもその自認するとおり道路横断に際して左右の交通安全を確認しなかつた過失を認め得、同人の右過失は、同人の本件損害額の算定に当り斟酌するのが相当である。
よつて、被告の抗弁は、右認定説示の限度で理由がある。
しかして、原告の右過失割合は、右認定各事実を総合すると、全体に対し三〇パーセントと認めるのが相当である。
(二) ところで、被告が原告の谷口外科分治療費金六万三〇〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがないところ、所謂過失相殺は全損害額についてこれを行うのが相当であるから、本件においても右過失相殺の対象となる本件全損害額は、前叙認定の損害額金二〇一万〇四二五円に右金六万三〇〇〇円を加えた合計金二〇七万三四二五円ということになる。
(三) そこで、右金二〇七万三四二五円を原告の右過失割合で所謂過失相殺すると、その後における原告の被告に対する本件損害額は、金一四五万一三九八円(円未満四捨五入)となる。
三 ところで、被告において原告の谷口外科分治療費金六万三〇〇〇円は既に支払ずみであることは、前叙のとおり当事者間に争いがないから、右損害金一四五万一三九八円から右金六万三〇〇〇円を控除すると、その残額は、金一三八万八三九八円となる。
四 弁護士費用 金一四万円
弁論の全趣旨によれば、原告は、被告において本件損害賠償を任意に履行しないため、弁護士である原告訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任し、その際相当額の弁護士費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟追行の難易度、その経緯、前叙請求認容額等に鑑み、本件損害としての弁護士費用は金一四万円と認めるのが相当である。
五1 叙上の認定説示に基づき、原告は、被告に対し、本件損害合計金一五二万八三九八円及び弁護士費用金一四万円を除く(この点は、原告自身の主張に基づく。)内金一三八万八三九八円に対する本件事故日の翌日(この点も、原告自身の主張に基づく。)であることが当事者間に争いがない昭和六〇年一一月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める権利を有するというべきである。
2 よつて、原告の本訴請求は、右認定の限度で理由があるから、その範囲内でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鳥飼英助)
事故目録
一 発生日時 昭和六〇年一一月六日午後四時二五分頃。
二 発生場所 神戸市長田区西山町四丁目一二番五号先道路上。
三 加害車(被告) 被告運転の自動二輪車。
四 被害者 徒歩の原告。
五 事故の態様 原告が右道路を北方から南方へ向け横断中、西方から東方へ向け進行して来た被告車に側面より衝突された。
以上。